かつては「強迫神経症」と呼ばれていた強迫性障害(OCD)。「つまらないことだとわかっていてもそのことが頭から離れない」「何度も同じ確認を繰り返してしまう」という症状に悩んでいる人はたくさんいます。強迫性障害は不安障害の一つで、パニック障害と併発することも多い症状です。そこで、この記事では、強迫性障害の原因や症状・治療方法・予防のポイントを解説します。
この記事を読むことで、強迫性障害とどう向き合えばいいのかがわかるでしょう。
01. 強迫性障害ってどんな病気?
まずは、強迫性障害の症状や原因・全国の患者数などをご紹介します。
1-1.脅迫症状を主とする不安障害の一種
強迫性障害は、脅迫症状を主とする神経症の一種です。自分の意に反して不安あるいは不快な考えが浮かんできて、抑えようとしても抑えることができないことを「強迫観念」と言います。そして、そのような考えを打ち消そうとして、無意味な行為を繰り返すのが「脅迫行為」です。自分でもそのような考えや行為は不合理だと分かっているのに、やめようとすると不安が募ってきてやめることができない。つまり、基礎にあるのは「不安」です。そのため、強迫性障害は不安障害に分類されます。
1-2.症状の現れ方はさまざま
強迫観念や脅迫行為の内容には、さまざまなものがあります。例を挙げると、以下のようなものです。
- 「誤って人を傷つけたり殺してしまったりするのではないか」という敵意や衝動にかんするもの。
- 「便や尿・ばい菌などで汚染されたのではないか」という不潔恐怖を伴ったもの。
- 触った後に何度も手を洗う「洗浄脅迫」。
- 些細なことの理由などをしつこく詮索する「詮索癖」。
- 自分のしたことが完全だったかどうか、絶えず疑惑が生じてきて何度も確かめないと気がすまない「確認脅迫」。
- ものの数や回数が気になって、数えないと気が済まない「計算癖」。
1-3.発症メカニズムは?
強迫性障害は、脳内の特定部位が障害をきたしていること・セロトニンやドーパミンを神経伝達物質とする神経系の機能異常などが原因です。ストレスによって発症することもありますが、多くの場合は特別なきっかけなしに徐々に発症します。
1-4.完璧主義者は注意!
強迫性障害を発病する人は、性格に一定の傾向があると言われています。以下のような人は、より注意が必要でしょう。
- なにごとにも完璧を求めて行動する。
- 小さな心配を重大に受け止めてしまう。
- 必要以上に自分の責任を大きく感じてしまう。
- あいまいなことに耐えられない。
- 自分の考えや感情を常にコントロールしたい。
1-5.50~100人に1人が強迫性障害
厚生労働省の調査によると、現在日本の人口における強迫性障害の患者数は、人口の1~2%程度。つまり50~100人に1人であると診断されています。総人口に換算すると、100万人以上の強迫性障害患者が存在すると考えられているのです。ただし、自分が強迫性障害であるということに気づかず、受診していない人もまだまだ多いでしょう。そう考えると、全国の強迫性障害患者はさらに多いはずです。
02. 強迫性障害を自分でチェックしよう!
「自分は強迫性障害ではないか…?」と疑っている人のために、セルフチェック方法をご紹介します。一度自分の症状をチェックしてみましょう。
2-1.当てはまるのはいくつ?
まずは、以下の項目でいくつ当てはまるものがあるかチェックしてみてください。
- 外出した際、家に鍵をかけたか? ストーブを消した?が気になる。
- 自分自身や自分の周りが汚れている・不潔だと感じる。
- 「4」や「9」の数字は不吉で嫌だと感じる。
- 何か重大な病気になるのではないかと恐れている。
- 常軌を逸した行動で、他人に危害を与えるのではないかと不安になる。
- ものごとの手順や生理は100%完璧でないと気が済まない。
- 不吉な想像をして、現実に不幸がくるのではないかと心配になる。
- 「自殺」という言葉を聞くと漠然とした不安や恐怖を感じる。
こういった考えやイメージが何度も頭の中をよぎることはありませんか?
もし一つでも当てはまるものがあれば、強迫性障害の疑いがあります。
2-2.強迫性障害と似た病気もある!
強迫性障害は、脅迫症状が現れる精神疾患ですが、ほかの精神疾患と非常に似ている部分もあります。たとえば、パニック障害や恐怖症・強迫性人格障害などは、強迫性障害と間違えやすいため注意が必要です。また、特定のものに対して強くこだわったり、一定の行動を繰り返したりする点は、アスペルガー症候群ともよく似ています。強迫性障害の場合は日常生活に支障をきたすほどひどい症状が現れることがあるため、その点を見極めることが大切です。
03. 強迫性障害にはこんな影響があった!
強迫性障害は日常生活に支障をきたす病気です。具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?
3-1.できないこと・行けない場所が増える
強迫性障害は、症状が重くなると日常生活に支障をきたすようになります。脅迫行為に大半の時間をとられ、ほかのことをする余裕がなくなったり行けない場所が増えたりするのです。やがて学校や会社に通うことができなくなり、部屋から出ることができず、引きこもりになる人も少なくありません。また、症状に追われる生活が長く続くと、気分が落ち込みやすくなり、自分の行為に自信がなくなったり悲観的な考えしかできなくなったりしてしまいます。これによって、うつ病を併発してしまうこともあるのです。
3-2.放置すると家族を巻き込むことも
強迫性障害を治療せずに放置すると、当然症状は悪化します。家族と同居している場合は、家族も症状に巻き込まれてしまうことも少なくありません。たとえば、汚染への不安のため、本人が家族にも不要な手洗いを要求することが出てきます。特定の場所に触ることを禁じることもあるでしょう。そうなると、家族の生活にも支障が出てしまい、ストレスを感じた家族がうつや睡眠障害を引き起こしてしまう危険もあるのです。
04. 強迫性障害の治療方法と薬の種類
強迫性障害は精神科で治療することになります。具体的にどのように診断され、治療を行うことになるのでしょうか?
4-1.強迫性障害の診断に役立つ質問例
強迫性障害の診断をするに当たって、医師は以下のような質問をします。
- どういったものを汚いと思いますか?何度も繰り返し手洗いをしますか?
- どのような「確認」の症状がどのようなときに出ますか?
- 繰り返し浮かんでくる考えや行為で、何か困っていることはありますか?
- 一つ一つの行為をやり終えるのに長い時間がかかりますか?
- 順序正しいことや左右対称にとらわれすぎていませんか?
- 自分の行動を馬鹿げていると思いますか?
このような質問を患者さんに投げかけることで、具体的な治療方針を立てていくことになります。脅迫行為は、脳炎や脳血管障害・てんかんなどの脳器質性疾患でもしばしばみられるため、こういった病気が疑われる場合は血液や髄液の検査などが必要です。
4-2.「薬物療法」と「認知行動療法」を中心に治療する
強迫性障害の治療は「薬物療法」と「認知行動療法」の二つを中心に行ないます。それぞれを具体的に解説しましょう。
4-2-1.薬物療法
強迫性障害の治療には、その原因と考えられている「セロトニンの異常」を調整する薬を使用します。主に使用するのはSSRIという抗うつ薬の一種です。脳内神経伝達物質のうちセロトニンのものだけに作用し、正常に近い状態に調整してくれます。通常、SSRIの効果が現れるのは12週間程度です。そのため、12週間継続使用しても症状が緩和しない場合は、三環系抗うつ薬の塩酸クロミプラミンや抗不安剤や抗精神病薬などが合わせて使われることもあります。
4-2-2.認知行動療法
認知行動療法は、強迫性障害をはじめとする精神疾患の治療に高い効果を発揮します。認知行動療法とは、日常生活の中で生じるさまざまな問題に対して、患者さんがどのように考え、感情や体が反応するのかを把握し、その対処法を考えていく治療法です。一般的なものとしては「暴露反応妨害法」があります。この療法は、患者さんに強迫観念や不快感を引き起こす状況や人物にあえて直面してもらい、刺激を与えるものです。段階的に与える刺激の程度を強め、徐々に慣らしていきます。そして、「脅迫行為は不要である」ということを本人が自覚するように促すのです。
4-3.漢方が強い効果を発揮することもある!
強迫性障害には漢方が高い効果を発揮することもあります。もちろん、漢方で障害そのものを改善することは難しいでしょう。しかし、不安感や焦燥感を緩和する効果は十分に期待できます。また、漢方を服用することで2次的な症状を防ぐことにもつながるのです。強迫性障害に効果がある漢方薬には「抑肝散(よくかんさん)」や「柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)」「釣藤散(ちょうとうさん)」などがあります。
05. 強迫性障害の予防ポイント三つ
強迫性障害を予防するためにはどのような方法があるのでしょうか? 代表的な三つのポイントを紹介します。
5-1.ストレスを避ける
ストレスは強迫性障害の症状に大きく影響するものです。できるだけストレスを避けることや、ストレスを発散するための時間を作ることが予防対策になります。ただし、普段の生活にストレスが多い場合であっても、誰もが強迫性障害になるわけではありません。そのため、あまり過敏になり過ぎないようにしましょう。また、ストレスを発散する目的でお酒やギャンブルに依存するのは危険です。余計に悪い状態に陥ってしまう人もたくさんいるため、ほどほどにするよう注意してください。
5-2.体調管理に気をつける
心の健康を守るためには、体調管理が必要不可欠です。無理をしない・疲れをためないことは、体だけでなく心の健康にとっても大切なこと。十分な睡眠をとり、食事や運動にも気を配りながら体調管理をしましょう。
5-3.自分の状態をチェックして、適切な対応を
自分の体に耳を傾け、日々の体調や気分の変動をチェックしておくことも忘れないでください。「危ない」と感じたときには、早めに適切な対応を取りましょう。必要なときは、医師に相談して薬を処方してもらってください。危険な状況を乗り切るまで一時的に薬を服用するという手もあります。
06. 強迫性障害の治療を行っている病院の紹介
強迫性障害の治療を行っている病院をいくつかご紹介しましょう。強迫性障害の治療は「精神科」「神経科」「精神神経科」「メンタルヘルス科」で受けることができます。
人形町メンタルクリニック
http://www.cocoro-support.com/Obsessive_Compulsive_Disorder.html
企業や官庁の精神科産業医・嘱託医としての経験を生かし、患者1人1人の問題に幅広く対応しています。土曜診療、平日は夜7時まで診療を行っているため、働いている人も安心して通うことができるでしょう。
神宮前 こころのクリニック
jingumae-cocoro-clinic.com/medical/ocd/
初診にじっくりと時間をかけるのが特徴のクリニックです。薬物療法だけでなく精神療法にも力を入れているため、不安な方はぜひチェックしてみてください。
東京認知行動療法センター
tokyo-cbt-center.com/programs/ocd
認知行動療法を幅広くとらえ、さまざまな精神症状や心理的問題の解決方法を提案しているセンターです。年中ほぼ無休、午後9時まで相談を受け付けています。
07. 強迫性障害の関連書籍紹介
強迫性障害に関連する書籍をご紹介します。
エキスパートによる強迫性障害(OCD)治療ブック
http://www.amazon.co.jp/エキスパートによる強迫性障害-OCD-治療ブック…/4791107365
わが国のエキスパートが強迫性障害の基礎知識や治療法を余すところなく紹介した1冊です。画像診断や薬物療法、認知療法などの最新情報がまとめられています。
やめたいのに、やめられない(強迫性障害は自分で治せる)
http://www.amazon.co.jp/やめたいのに、やめられない-強迫性障害は自分で治せる…/483…
無意味なルールにとらわれた人の80%に有効な「エクスポージャーと儀式妨害」を紹介。強迫性障害を克服した体験者のリポートも掲載されています。
図解やさしくわかる強迫性障害
https://www.amazon.co.jp/図解やさしくわかる強迫性障害-原井-宏明/…/4816352376
強迫性障害の正体と治療のメカニズムが詳しく解説されています。具体例がマンガで紹介されているため、読みやすい1冊です。
08. 強迫性障害の治療体験ブログ紹介
強迫性障害の治療を体験した人たちのブログをご紹介します。
克服したよ!強迫性障害
http://kokufuku-ocd.ever-growing-up.com/
30年以上かけて強迫性障害を克服した経験をつづったブログです。具体的な症状や克服日記をぜひチェックしてみてください!
うつ病と強迫性障害の向こう側へ
http://kokufuku-ocd.ever-growing-up.com/
うつ病、強迫性障害、対人恐怖症を抱えて生きる筆者が、毎日を頑張っている様子がつづられています。
強迫性障害と心の闇
http://mikachan0717.blog.fc2.com/
強迫性障害の経緯と治療、日々感じる心の闇をつづったブログです。病気に飲み込まれていく恐怖や悲しみを語っています。
まとめ
いかがでしたか? 強迫性障害の原因や症状・治療方法などをまとめて解説しました。「自分は強迫性障害ではないか…」と疑っているなら、ぜひ一刻も早く専門家に相談してみてください。自分に合った治療法や対処法を見つけることで、強迫性障害の不安から抜け出すことができるでしょう。